魚心筆心

No.3 ガンガゼ

以前ガンガゼに手を刺されて お医者さんに診てもらったことがある。
刺されたと言うより、刺したのである。 ガンガゼが自分から刺しに来ることは無い。 彼らは(彼女かもしれない)それほど器用ではないし、もちろん そこまで人を恨む性格でもあるまい。

その時はちょうど 私の上を処構わず泳ぎ回る初心者ダイバー(その時は私も初心者だったが)がいて、その人と岩に挟まれた様になったのだ。 たまらず手を突いた所には、髪をムースでカチカチに立たせたようなガンガゼ君がいた。 痛いと思って手を引っ込めたのだが、ガンガゼはポキポキと折れ手の中に残ってしまった。

ガイドに見せると 「OK」 のサインを出された。 たぶん 「わかりました。大変でしたねえ。」 という意味なのだろうが、 その時の私には 「何が 『OK』 だ。 こんなに痛がっているのに。プンプン」という気持だったのだ。

痛い痛いファンダイブが終わって、海から上がると 早速風呂に行って 湯に浸けた。 そうすると痛みが多少治まると聞いたからだ。 なるほど 痛みは治まるが、湯から出すと痛いので、風呂から出られない。

翌日、最寄の海の事故に詳しいといわれるお医者さんに診てもらったのだが 棘は抜いてもらえなかった。 「レントゲンに写らない物は抜けません。」 と言われ、薬も無く そのまま帰ってきた。 「このまま一生 この痛みを背負って生きていかなくてはいけないのか。」 と そのときは思ったが、今は痛みも 傷跡も何も無い。 あの棘はどこへ行ったのやら。

病院の診察室から出るとき、そのお医者さんに言われた。 「ところで、ウニはたくさん獲れたかね。」 ・・・知らん!

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